「山のてっぺんで、普段は使わないくらいの大声を出して、 今朝からずっと肩が痛いのだと叫んでみたい」
部屋には部屋ごとに照明が取り付けられているが、 日が暮れるまでの僅かな間、 じわじわと視野が闇に吸われていく只中に人口灯に明瞭を求めたく ない感覚。誰かわかるだろうか。 言えば共感を示す何人かが現れるだろうか。 片肘をついて窓に目を向ける。 薄っすら青みがかった夕闇が沈んでいる。
山に登るならどの名前の山に登ろうか。なんてことは、 考えたとて大した意味はない。固有名詞に明るいのではないし、 山にすら殆ど興味を持たない。夢想するなら雲の上、 体感温度がくっと下がる山の一番高いところで自分の中身を広げた い。スカスカなのに重くて動きが鈍い己の内側に、染み通したい、 冷えた爽快を。
はあ、ひとつため息を吐く。
ちょっとしたことで十分なんだよ。 下らないなと真顔で一刀両断でも、 一笑に付すのでも何だっていい、 自分以外の息遣いが感じられれば。
「なんて、閉じ籠もりぱなしで吠えても仕方ないな」
瞼の裏も、窓の外と同じだけ、暗度が高く孤高を誘う。 人家の窓明りが柔らかく刺さって痛い。左肩はまだ痛いし、 夕食の準備が完了するのを不動にて待機している現状にも眉をひそ める思いがする。
山のてっぺんに、横たわりたい。