喉がいてえ。やる気が萎えて布団から起き上がれない。
病気か?
「それなら注射うちましょねー!」
ドスドスと床の抜けるのが心配になる音で、歩く音だったらしい、 白衣を纏った人物が現れた。 スマホを暗闇で見詰めている状態だから、 その人影が誰であるかというのがわからない。 当然顔の造形は確認し得ない。
「ガハハ、ほら右腕出せや!」
「うわ、怖い、怖い!!」
腕を鷲掴みにされ、上方に持ち上げられる。左腕だった。 間違った側の腕だが、自分の利き腕は右なので、 指定通りに右腕を出し直して食らう副作用を危惧するならば、 左腕が質に取られたのは吉であろう。
「いてえ!」
「水から茹でられる蛙の痛みとどっちがましだ? 注射だな!」
「答えてねえし、いてえし!」
ぱっと剛毅な掴みから解放された。 確実に何かを注ぎ込まれたという異物感がある。 やや気分が悪くなってきた。ノシーボ効果だとは思うが、こんな、 医者ですらない藪にされることで本当に健康を害すことだって考え うる。現に何の注射か、聞いていない。
酒かな、と答えがあった。遺書を書く時間はあるだろうか。 きっと今蒼白な顔面を晒している。 ゴツいナースはガハハと雄叫びを上げている。 久しぶりに理不尽を感じた。他人ってこんなに。