ぎゃあと頭を抱えて悶絶したくなった。 腿の上に澄まし顔の紙を一切れ、見下ろしながら、 Fは鼻から肺の中身を出し切るまで腹に力を入れる。 頭を右手で掻きむしり、きつく目を瞑る。
どうしたもんか。今日に限って、Sがいない。 何でもござれと胸を叩くあの底抜けな快活と頼もしさがない。
Fは顔から表情を削ぎ落とし、荷物をまとめた。 腿に乗せていたのは彼の創作メモ用紙で、 もう一行のアイデアも入れない満員状態だった。 思い付いてもさっと記せる紙がない。そんな制限下ほど、 いくつもアイデアの欠片が目に留まるのを、憂う。 はやく新しい紙を補充しなければ。 次の外出で同じことを悩まないで済むために。
Fは出来るだけ創作意欲を刺激されないように、 シンとした態度を頑張ることにした。
「…ということがあってね」
「よかったな、それをすぐに書いたんだろ?」
「書いたよ、次は無いなと思いながら」
いじけた口調でFが言ったのを、Sが笑い声で返す。 二度目があっても書くくせに、と揶揄うのだ。 Fは無言に徹してカップのコーヒーを啜るが、 拗ねた由の反応ではなかった。 Sは嫌味なくFの活動が停滞していないことを喜び、 再び作業に戻る。画面を見て、 手元のボタンを巧みな指遣いで鳴らしながら口許は笑っている。
Fは自分が単なる休憩中の姿でしかないことを思うが、 かといって何の手出しもできなかった。 砂糖が要るかと突然尋ねてくるSに舌打ちをする。 ここではSの独壇場なのだ。 ピーシーがあんなに流暢に使えるSが、妬ましさ半分、 羨ましさ半分でかっこよく見える。楽しそうだなあおい。