創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

似てるんだってさ(一カラ一)

やっぱ暑い。これだから夏は。


ひたすら流れる時間をやり過ごす昼下がり。俺以外にはおそ松兄さんとチョロ松がいた。もう完全に夏だから、汗をかくことが決定した時点で冷房を効かせて汗を予防しなければならない、という意味のわからない持論で冷房のスイッチを押したがるおそ松兄さんのせいで、リモコンは母さんが四六時中持ち歩くようになった。巻き沿いを食らって死にそうだと、誰かが母さんに訴えたが、図書館でも行けと一蹴された。あるいは冷房の効いている職場を見つけろと言う。全く見当がつかない。そんな職場、実家以外に存在するのか?
そんなわけで、7月上旬の暑さを全身に受けて、俺はだらだらしていた。日が落ちて涼しくなったら猫に餌をやりにいく。最近のルーティンだった。
「うぁあああぁぁあ...」
あつい、あついと繰り返すおそ松兄さんに、すかさず黙れと突っ込んだのはチョロ松。冷蔵庫にでも入ってろととんでもない指示が飛ぶ。本当に冷蔵庫に突っ込もうとしたおそ松兄さんは馬鹿だ。
 
「あ、一松見てたら思い出した」
「...あ?」
腕や足を水道水で濡らして冷凍庫から流れる冷風で冷やすという電気代を無駄に使いそうなクールダウンを経たおそ松兄さんがふと言った。俺の格好が暑苦しいとでも言うんだろう。季節に乗り遅れて上下長だからな。
「一松とカラ松って、似てるよな」
「は?」
「あー、似てなくはないよね」
「は??」
その後は、おそ松兄さんとチョロ松が話し込む流れに入って、俺の話題なのに俺は全く付いていけなかった。こいつらが何言ってるのかわからないし、教えてくれないし、何でカラ松なのって感じだし、似てるわけないし、話に入るのは諦めて扇風機を占領した。
 
別の日、カラ松を見かけて例の事を思い出したから巻き込むことにした。俺とお前は似ていない。似ていると指摘される不愉快に巻き込んでやろうとした。
ひととおり、と言っても一言で済んだが、ひととおり話すと、カラ松はまず
「六つ子だし、顔は似てるよな」
と言った。こいつは馬鹿なんだなと思った。顔が似てるのなら六人の内二人だけピックアップする真似はしないだろうと正す。つうかこいつと顔が似てるって言われたら冗談でも爆死ものだ。無理無理無理。
「で、もし万が一仮に間違いが起こって俺とお前が似てたとして、そしたら片方が二人いるのと同じなんじゃないかって考えたんだけど...」
「俺が二人...悪くない」
「俺は無理。こんなどんよりしててじめじめした奴、見てるだけで気が滅入る」
辛うじて自分自身が居ることは受け入れているのであって、全く自分と同じ性質の人間が自分とは別に存在していたらと思うと酷い気分になる。早く死ねばいいクズが倍増することと同義。世も末か。
俺みたいなのは本当に要らないなあと、階段を見上げた。真昼だが薄暗い階上が、まるでめんどくささの無いバージョンの自分の闇みたいに見えた。
...こいつは、カラ松は、今目の前に立っている自称ゴミクズの人間の欠陥品をどう思っているのだろう。なんてこんな疑問も面倒な奴感ばりばりなんだよなあ。
二階の陰から視線を外し、なんともなしにカラ松の方を伺うと、バッドタイミングに目が合った。合わせるつもりが全く無いのに、こういうときだけ本当に何なのだろう。すぐに逸らした。
「アンタは自分好きだもんね、俺がお前なら良かったね」
ほとんど棒読みだった。思っていないことを言うのは簡単だ。言葉さえあればいいんだから。感情は付いてこなくていい。もう話は終わったので、喉が渇いたし冷蔵庫を漁ろうと台所へ足を向けた。
歩き出した俺の腕を、奴は掴んで振り向かせた。急激に不愉快が訪れて、ぶっきらぼうに用件を問う。
「なに」
「...よくない」
「何が」
「お前じゃないと、一松じゃないと、よくない」
「なんで」
思わず根掘り葉掘り聞き出すような質問が口から滑り出て、焦った。詳細を知りたいなんて考えは封印しておくはずだったのに。他人が自分に対して抱く如何なる評価も、感情も、全部知らなければ思いやる必要がない。俺はお前に興味が無い。そう言って切り捨てられるから。
だがもう言ってしまった。訊いてしまった。はぐらかされない限り、相手の心を聞くことになる。嘘であれ、本心であれ。こいつを前にすると余計なことをぼろぼろと言ってしまう。あぁ、これだから、僕は、カラ松が。
なんでと更に問われて面食らったカラ松は、もごもごと口の中で言葉をまとめているように見えた。考えてものを言う場面はレアだと思う。普段何も考えてないからな、こいつ。何も考えてないから、どこにでもホイホイ飛び付いて、酷い目に遭っても懲りないで、繰り返す。馬鹿だ。ついでにいつも溌剌してるし、真夏なのにバテないってことは多分俺とは別の生物なんだと思う。太陽好きそう、俺とは違って。なんなら太陽に向かって駆けて灰になるまでがありありと思い浮かべられる。...いや、こいつが太陽か?太陽の化身なのか、こいつ?
俺が阿呆な思考にはまりこんでいる間に、口をもごつかせていたカラ松は準備ができたらしい。怖じ気付くほどまっすぐ俺を見ていた。怖ぇよ...。
「一松。俺が二人居るのもファンタスティックだが、それよりも」
一松のことを知りたい
...と、鋭い眉の角度を崩すことなく、そして矢鱈ぎらついた目で思い切り格好つけて、カラ松は囁いた。ちょっと頭が混乱したので、とりあえずカラ松をのして、階段の四段目に腰かけた。腕を組んで、目を閉じて、どうにかこうにかカラ松の発言と態度を切り離して、発言の方だけ取り上げて、分析を試みた。
エンドレスリピートは可能だったが、全然分析などできなかった。理解が追い付かない。俺のこと知りたいってなに?わかんない。まあいいか。
 
「え、カラ松!?死んでんの?」
第一発見者はチョロ松で、ひとりで二言ほど叫んでから、何事も無かったかのように去っていった。去り際に、熱でもあんのと聞かれたが、まさか俺に問うているとは思わず、結果的に妙なものを見る顔をされた。
「熱...?無いと思うけど」
「自分のことなのに他人事だな...」
「...」
俺はカラ松に熱があるのかという質問だと勘違いしていたらしい。なに食わぬ顔でガンスルーしておいたが、さっきよりも血が上ってきた。
...さっきよりも?
......?