創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

打因

「くそ雑記」の2024年3月30日分にも同文章があります。

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モルモット
バトルドーム
精神異常  ―ワードカスケードより任意に抽出

しあわせの言葉で自分を騙して生きていける、想像力の残高がほしい。

1、土
母がチューリップを育てていた。いつの間に植えたのか、知らない。見てみるように母に声を掛けられたとき、花は数日もしない内に咲きそうになっていた。茎が短くてちんちくりんなバランスのチューリップが、今は五輪ほど開いている。全て白い花びらだった。
自分が育て始めたのじゃなくてよかったと思う。もし、球根を埋めたのが自分だったらと考えると、望まれる「普通」の将来は見えない。脅しているわけじゃない。私の手にかかれば、私の適度な責任感により、咲く花も咲かない。これは、予想される事実である。
植物なら二度殺した。水をやらずに枯らした。死んでゆく植物の叫びも泣き声も聞こえず、恨む植物の夢を見ることもなく、鈍感に私は生きている。いつも被害者でしかないと思い込んだ顔を晒して、呼吸している。そうして加害できる私は思う。人間に、水をやらなかったら枯れるのか。枯れるのならば、今度は殺人者になる。法に抵触し、罰則を受ける規定がこの身に降りかかる。
その晩は頭痛がしていた。常々なぞっては安心を確認する思想に懲りずに手を触れる。ああ、今日も、明日を疎んでいる。息を吐く。

2、剣
競争には疲れた。恵まれた者の望みは総じて贅沢なのだろうけれどね、指摘して贅沢な悩みだねなんて言われたら、私はお前と同じ形をしている全てが嫌いになるよ。…もう、嫌いだったか。嫌いだわ。
戦わないで生きていきたい。競り合いの無い日々に浸って溺れたい。ただ呼吸に徹することを、何よりも誉めてほしい。あらゆる序列を別世界の事象と、布団の中から観察していたい。生きることさえ淘汰なら、その生きることを…。
何をしても、しなくても、自分は序列の中にいる。資格を取ろうと奮起すれば順位が上がる。外に出たくない、誰とも分かりあえないと塞ぎ込んだら順位が下がる。私は極めて底辺のところで、ブルブル震えて順位を二転三転させているのだよ。順位と年収は、殆ど相関関係にある。私の年収は零だからね。無いんだ。与える順位もないと背中を蹴られて、圏外に手を付くことを幻視する。いっそ、気が違えば楽になるだろうと夢を見るのと変わらない。
「それでも今かじりつこうとしているのは何なのだろう」
ごちたところで誰にも応答は貰えないと知っている。返事があるならコメディと化す。それは創作だ。都合のいい言葉を放つ存在の捏造、伴う虚しさに私は耐えられなくなったよ。それなのに、ペンを握ったまま離せない。してやられたよ、創作に。体内から出たという差で、しかし他人の誰にも伝わらぬ点で等しい愚痴を蓄積するしか能がない。せめて自身が認めたい。
己が救いとならんことを。
序列の中から抜け出せない者にできることは、見えている前の人間の背中に、別の景色を重ねることだ。序列という現実を忘れろ。これでもかという程、自分を寵愛したっていいじゃないか。いつか、自分大好きビームが、序列の観念を破壊する日が来るのなら、私は掌に貼り付いたこのペンを、握り締めて笑うことにする。

3、躁
他人をじゃがいもと思え、という作法がある。含意はわかるが、じゃがいもに思えたことがない。記憶に納められたじゃがいものビジョンを、視界に映る全ての人間の頭部とすり替えるのには、これはかなりの集中力が要されると思うのだ。きちんと他人がじゃがいもに見えているひとを知りたい。これはじゃがいもでなくても、猫でもトマトでも石つぶてでもなんでも構わない。人間の顔パーツを隠せる修正を施せる力は、少々羨ましい。
人間には目がある。目を見て話せ、というフレーズは蔓延している。しかし、立ち止まれ。本当に相手の目を直視できる人間が幾らいるのか。他人の双眸は太陽に類似し、見ると生体に支障を来すものである。太陽の直視は視細胞を破壊するそうだが、他人の目の直視は精神の安定性を破壊する。何かがとても怖い。何を怖がっているのか判然としない。直感的に恐怖を抱くので、言語化を試みたことがなかった。今ここで、考えてみる。例えるなら、夜、窓の外から何かに見られているのを想像したときの寒気に似ているか。自分の顔が映るほど暗い窓の硝子の向こうに、得体の知れない何某かが居て、自分を見ていたと、仮定したときの悪寒。たしかに、似ていると言えそうだ。他人の目はあまりに獰猛であるという結論で締める。
他にも生身の他人の恐怖箇所はあるが、今回はここで終わる。三段噺を書こうとしたのが、こんなことになった。下手くそ、精進せよ。

習慣

ある小春日和の日、日が暮れるまでの旅路を帰ってきた奴は、靴を脱ぐなりこう言った。

「鍛えにゃならん。あと、向こう三年は遠出しない」

次の日、前日の疲れを引き摺って、起床は遅かった。しかし筋肉痛にはなっていないようで、これ幸い、と口に出していた。塩味がうまいときは体が危険だと言いながら、カリカリ梅を探している。スマホに指を滑らせて、通販サイトを漁る。それを見守る俺。暇なのか、自分。結局、決心には至らず、スマホを放り投げ、水筒に冷たい茶を注ぎ出した。お供にすると見える。その水筒を小脇に、ランニングマシーンのある離れへ向かった。久しく見なかった足取りの軽さである。なにかインスピレーションが刺激されたらしい。

分厚い本を借りているので、隙間を見つけては読み進めている。返却期限まで三日しかない。全部は読み切れないかもしれない。それでも出来るだけ先に進んでおこうと、黙って本を開いた。

寝ていた。喉が強い渇きを覚えている。お茶を出して飲もう。と思うが纏わり付くまどろみにかまけ、起き上がれない。十分ぐらい経った。二十回は何か飲みたいと主張するのをお座なりに躱し、しかし流石に喉が渇いてきた。唾を飲むのが痛い。飲め飲めとうるさいので、仕方なくこたつから足を引き抜く。

 

奴は三日坊主だった。日記も、資格勉強も、語学も、読書も、なにを始めてもすぐに飽きたと言った。俺が勧めた趣味候補はインドアに偏るから、というのもあったかもしれない。バドミントンも、続いたようで続かなかった気がするが…。あれは俺が今の三倍は動けていた頃のことだから、もしかすると俺の体力量に比例して、バドミントンをやらなくなったのかもしれない。ああ、俺のせいですか…。

「すげえ育ったな」

「やっぱり? 最近体が軽い。前はそこの神社の階段を昇るので足りていたのが、今は二往復はしないと満足できなくなった」

ほう、と言って黙った。気の利いた感想が浮かばなかった。俺は相変わらず体力カスのままだから、どんどんと奴との差ができている事実を再確認しただけだった。焦らなかったわけではないが、まあいいかこのままで、が勝ってしまった。間を繋ぐのに、冷蔵庫の茶を注いで飲んだ。

 

夏の盛りのことだった。あれは事件と呼んで差し支えないと思う。俺の人生の中ではトップに躍り出る位の、驚きをもたらす事件が起きた。

奴が爆発した。体を作る習慣は一日たりとも欠かすことなく続けていて、目に見えて体格が厚みを増していった。桜が散るころに、肩周りが動かしづらいとぼやいていた。奴はそれを、ごわごわする、と表したが、突っ張る感じだったのだろうと予想する。奴はタンクトップばかり着るようになっていた。ゴールデンウィークには、胸が腫れ上がったように大きくなり、自分の真下を見る体勢を取るのが難しそうだった。伸ばしきった首の裏の皮を、恐る恐る眺めた。破れそうだと思った。その後、梅雨入りの頃には、いつ見ても、どこから見ても、風船に見えるようになった。ヘリウムを注入すれば飛ぶかもしれないなと考えながら、新書を読んだ。うどんを食べた。申し訳程度に、図書館までを自転車で往復した。奴は読書に目覚めなかったが、図書館をランドマークにして走ることはあった。俺のタイミングと合致すれば、図書館を待ち合わせ場所にして、各々のペースで集合した。全身が膨れ上がっても、奴は運動するのを止めなかったので、俺もそれを止めなかったので、図書館を待ち合わせに指定した。その日、俺が奴を追い越して、随分早く到着したことで、本能的な危機を悟った。本を選る時間すらあった。

お前、やばいね。動けないマッチョになってるじゃん。

やっぱり? と相好を崩して見せた日、図書館から家までを各自で移動しようと言って別れてから、奴は、爆発した。土手になったアスファルトの上だった。その晩の雨で赤は流れたらしい。見に行ってはいないから知らない。ふと、自宅だと雨が降らないし、どうやって片付けるんだろう、と疑問が浮かんだが、答えを見つけることはしなかった。やらずに済んだのだから、ラッキー、でこの話はおしまいだ。

俺は今日も本を読むが、そこの神社の階段を昇り下りするために外に出る。指先がしわになって、風呂から上がって半日経ってもしわが薄くならないので、決意した。大人しく萎む気は、あまり無かった。



ドラゴンボールで、ムキムキにしすぎて動きが鈍くなる件があったねー。それを思い出したのでこれを書いたような気がする。